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2020.10.26 センターお知らせ 

「地域の記憶を描くふるさと絵屏風を持続可能な社会の人材育成につなげる」山内エコクラブ その2

近畿ESDセンターは、開設4年目となりました。近畿ESDセンターでは開設当初から、学校教員のESD推進を応援する拠点の取材に取り組んでいます。令和2年度は4つの拠点に対して、コロナ禍の状況に配慮した上で対面またはリモート等、拠点に可能な形で取材を実施することができました。
7月17日に滋賀県甲賀市を中心に活動する山内エコクラブを訪問し、代表の竜王真紀さんにお話をうかがいました。
「地域の記憶を描くふるさと絵屏風を持続可能な社会の人材育成につなげる」山内エコクラブその1はこちら
レポートその1では、山内エコクラブ発足の経緯とその主な活動の様子についてお伝えしました。その2では、地域の小学校と連携して展開されている具体的な実践について、元小学校教員の中澤(地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)のコメントと共にご案内します。

【学校教育に絵屏風を生かす】

山内エコクラブの発端(11年前)となった山内小学校は、3年前(2017年)に閉校となりました。山内地域の子どもたちは、現在は隣町の土山小学校に通っています。
ふるさと絵屏風が完成した年から、その土山小学校において山内エコクラブは3年生と4年生の昔のくらしの学習の単元で、出前講座を受け持っています。竜王さんと、山内エコクラブを立ち上げられた井阪さん(元山内小学校校長)のお二人が、学校と山内エコクラブのお年寄りとのつなぎ役と言えます。また、市の民俗学芸員と同行・協働することで、学識的なアドバイスも得ることができています。

《絵屏風にある「番傘をさして歩く人」を当時の実物で表現:山内エコクラブ提供》
子どもたちが学習する「昔の道具と人々の暮らし」「昔から伝わる行事」など、まさに山内エコクラブが作成した「ふるさと絵屏風」に描かれている内容なのです。子どもたちは出前講座に訪れた山内地域の人と交流する中で、今まで見たこともない古い道具や自然物を利用した手作り品に、先人の知恵を見出すことでしょう。絵屏風からは、地域の年中行事が人と人をつなぐ大切な役目を果たしていたこと、農作業や里山の手入れが協働でなされていたことから、当時の人のつながりや助け合いの重要性に気づくはずです。
学校の先生方にとっても、子どもたちに「本物」に出会わせることのできる貴重な体験学習の場となります。先生自身も知識としてしか知らなかった昔の道具の使い方や、それに関連するエピソードなどを、山内エコクラブの方々から聞いたり、実際に体験したりすることができ、子どもたちと同じ新鮮さで驚きや発見があることでしょう。
ふるさと絵屏風は、実物の2/3のサイズのタペストリーに複製してあり、学校などにも容易に持って行けるようになっているそうです。元が大きな屏風絵なので、2/3とは言っても十分な迫力があり、絵に描かれている内容も正確に伝えることが可能です。子どもたちが疑問に感じたり、興味を持ったりした箇所には、付箋を貼ってみんなで共有することもできると聞きました。コミュニケーション力の育成や、自分の地域に目を向けることで地域愛をはぐくむことにもつながります。

《絵屏風を見ながら、お年寄りから当時の暮らしや体験談を聞く:山内エコクラブ提供》
3年生の昔の道具や暮らしの学習では、朝の5時に起きてみんなの朝ごはんの支度をする話とともに、ご飯を炊くお釜、ご飯を入れておくお櫃なども持参して、実際に使っていた道具で昔の様子を再現するので、具体的に理解できます。もちろん電化製品などはありません。石臼でお米を粉にする「石臼まわし体験」も、子どもたちの心にしっかり残るようです。「やまえこ通信」(山の内エコクラブ発行)を読むと、山内エコクラブに届いた児童の感想からも、「石臼は右手で回して左手でお米を入れるなど、昔は体を使うことを教えてくださりありがとうございました。」「昔は電気を使っていないから大変なのが分かりました。」と、体験を通して今と昔の暮らしの違いや工夫に目を向けているのが分かります。
4年生では、七輪を使って、火おこしから炭火で餅を焼く体験をしています。子どもたちは、「火を竹でふくとよく火が燃えることを教えてもらいました。」「お餅を七輪で焼くのとレンジで焼くのを比べたら、七輪の方が美味しかったです。でも、うちわであおいで火をおこすのは苦労しました。」など、山内エコクラブのお年寄りの手ほどきで、日常では味わうことのできない体験をすることができています。
また、手づくりの絵図に描かれた当時の生活の話をその経験者から実際に聞くことができ、絵解きの語りもとても臨場感のあふれるものとして子どもたちの心に残るはずです。生活の中の水に関わることでは、「川遊び」「筏こぎ」「水車」などを子どもたちは絵の中から見つけ出したそうです。昔は水がきれいで、生活用水、農業用水など生活に密着していたことの証とも言えるでしょう。

《絵の中に描かれた一コマに昔の暮らしの様子がうかがえる:山内エコクラブ提供》
山内エコクラブの活動を他の地域や学校にも広げていくことについて尋ねてみました。竜王さんは、「学校がその地域の高齢者を発掘し、活躍していただくことが大事です。依頼があれば、その地区の自治振興会と連携を取りながら行うことは可能ですが、大事なことは、その地域ごとの個性を大切にすることです。」と仰っていました。
こういった絵屏風を通した昔の暮らしの学習が、これからの社会を生きる子どもたちにどのような意味を持つのかと考えてみました。地域のお年寄りから、物を大事にする丁寧な暮らし方、自然の恵みに対する感謝、自然と共に生きることの喜びを語ってもらうことは、つまり人間社会のあり方の基本の精神を示してもらうことといっても過言ではないと思います。そして、これらが持続可能な社会にとってのキーワードであるとも言えるのではないでしょうか。便利さや快適さだけを追求するのではなく、環境保全や文化の継承なども含めて自分の行動に責任を持てるような人としての生き方に通じると思います。
(中澤 地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)
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