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2019.02.12 センターお知らせ 

「~世界遺産のお寺で、気づく、学ぶ、考える~東大寺寺子屋」華厳宗大本山 東大寺 その1

近畿ESDセンターでは、昨年度に続き、平成30年度も学校教員のESD推進を応援する拠点を取材しています。11月26日に華厳宗大本山東大寺を訪問し、華厳宗教学部長・東大寺教学執事の上司永照師と、寺務所執事室の鈴木公成氏のお2人にお話をうかがいました。
 
東大寺といえば、奈良時代に聖武天皇の発願により造られた「奈良の大仏」はあまりにも有名です。造立から現代まで長い年月を経て、それぞれの時代の人々の思いが込められた東大寺大仏には、日本国内はもとより外国からも大勢の人々が参拝に訪れます。
 
天平15(743)年聖武天皇は仏教の教えを基に、国民ひとりひとりが思いやりの心でつながることによって国を鎮め、平和を導きだそうと考え、子どもたちの命が次世代に輝くこと、動物も植物も共に栄えることを願い、「盧舎那仏造顕の詔」を発しました。
まさにESDにつながるこの精神を、寺子屋体験を通して奈良の子どもたちに学んでほしいという願いの下に、東大寺寺子屋は企画され、平成30年度で第5回目を迎えました。
 
東大寺寺子屋は、奈良県内在住の小学5年生~中学3年生20名を対象として実施されています(平成30年度現在)。児童・生徒に感動を与え、気づきを促すプログラム「東大寺寺子屋」について、元小学校教員の中澤(地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)のコメントと共にご案内します。
 
 
◆「東大寺寺子屋」を始めたきっかけ
 
◎寺子屋体験を通して、気づき、考え、智慧を得る
◎世界遺産の東大寺に学び、日本の歴史や文化に直接触れ、奈良の良さを知る
 
先代の別当である筒井寛昭師 (第221世東大寺別当)がご就任されるにあたって、「東大寺は様々なことに取り組んできたが、1260年続いてきたこの歴史と環境の中で、子どもたちが育っていく課程に何かお役に立てないか」と提案されたのが始まりだそうです。
 
「学校の教室で学ぶ知識ももちろん大事だが、お寺の中で得られる気づきや学び(別当は「智慧」とおっしゃっておられたそうです)というものを自分の中で咀嚼してもらいたい、そういうものを自分から磨いて生みだす力を寺子屋の中で子どもたちに培ってほしい」という思いが、東大寺寺子屋のキャッチフレーズ「気づく、学ぶ、考える」となっています。夏季休暇中の大変暑い時期に、二泊三日という短い期間ではあるが、東大寺の中でしか見たり触れたりできないものに接して、有意義な体験をしてほしい、と仰っていました。
 
また、1200年以上の歴史を持ち、世界遺産にも登録されている東大寺の中で培われてきた歴史・文化・芸術は、この場所でしか体験できないものなので、特に地元の奈良の子どもたちに、奈良の良さ、ひいては日本の素晴らしさに気づいてもらう機会としてほしいという願いがあるそうです。
千年以上続いている場所で過ごすことで、未来を10年、20年という短いスパンではなく千年の単位で考えることもできるのではないかと言われたのは、大変説得力のある言葉だと思いました。
 
 
◆東大寺の場所・環境を活かしたプログラムから
 
それでは、お二人にお話いただいた、東大寺ならではの活動プログラムをご紹介します。
 
①蓮の花のランタン作り~夜の大仏殿へお参り
子どもたちは、ピンクや白の花びらを一枚一枚貼り付けて、蓮の花をかたどったとてもかわいらしいランタンを一人一個作ります。夕食後にはその蓮ランタンを灯し、夜の境内を散策して大仏殿にお参りします。昼間と違い、観光客や参拝者が一人もいない大仏殿は、静けさの中に厳かな雰囲気が漂い、大きな大仏様の姿が子どもたちの目に焼きつくことでしょう。また、その場で聞いた声明(しょうみょう)も、耳と心に残るものとなるでしょう。
 

写真提供:華厳宗大本山東大寺 (夜の大仏殿で僧侶のお話を聞く子どもたち)
 
②蚊帳を吊って就寝
就寝場所は、1260余年間一度も途絶えていない修二会が営まれている二月堂の奥の参籠所(さんろうしょ)です。雨戸を全部取り払い、蚊帳を吊って寝るそうです。蚊帳を協力して吊り、その中で寝るなど、まさに子どもたちにとっては初めての体験でしょう。真夏でも意外と涼しい風が吹くそうで、自然の風のもと、悠久の時間の流れを感じながら眠りに就く訳ですね。
 

写真提供:華厳宗大本山東大寺 (みんなで協力して大きな蚊帳吊り)
 
③食事は全て精進料理
寺子屋での食事は全て精進料理にされているとのことです。大事なお子さんをお預かりするのだから、暑いさ中では、精進料理では、栄養面で不足するのではないか、という意見もあり、以前は子どもが好むようなメニューを提供していたそうですが、改善に向けた協議を経て、本物の体験をしてもらうことを大事にして精進料理に切り替えたということです。子どもたちは寺子屋体験のなかで自然な流れで準備・後片づけを手伝い、食欲も湧いて精進料理を美味しく味わった様です。
 
④お寺でしかできないこと
お寺から想像するのは、やはりお坊さんとお経ですね。東大寺寺子屋のプログラムにも、早朝から屋参籠体験(お堂参り)が組まれています。昨年までは自由な形で散策していたものを、今年度は一列に並んで黙々と歩き、境内の主要なお堂ごとにお経をあげる「社参」と言う、お坊さんの毎朝のお勤めを体験しました。また、「知足院本堂」という大きなお堂では、法話を聞いた後に冥想体験をしたそうです。
上司教学執事は、「蝉の声が賑やかな中で、それがかえって静けさになるというような体験は、子どもたちにとって、将来何かの役に立つことになるかも知れない。このような体験から得られたことが子どもたち自身の中で醸成されていき、その人の一生のどこかに影響を与え、持続可能な社会に向けた活動に活きることになるのではないか。等々考えて試行錯誤しながら取り組んでいます。」と仰っていました。
 

写真提供:華厳宗大本山東大寺 (知足院本堂での法話)
 
また、朝の境内清掃や、お坊さんの住まいであり、普段は入れない塔頭(たっちゅう)にも入り、お坊さんの暮らしぶりに触れるフィールドワークも体験しました。子どもたちは家の中にお堂があることにびっくりしていたそうです。東大寺を代々受け継いできたお坊さんの仕事や意思を知ることで、子どもたちの見方や考え方も広がることでしょう。
 
⑤一文字書道
寺子屋最終日には、3日間を振り返って自分の気づきや発見を一文字で表現しようという「一文字書道」と言うプログラムがあります。ここにも、自発的に気づいてほしい、学んでほしいという思いがあります。子どもたちは、墨を磨ってうちわに自分が考えた文字を筆で書きます。それは、自分の体験を通して得られた価値のある文字で、皆の前で発表することで、お互いの学びを共有できる貴重な場面だと思います。
そしてうちわの裏には「グループのみんなで考えた一文字」を書きます。二日目の夜にグループミーティングでその一文字を決める際は、初めにそれぞれが思う字を言い合い、歩み寄るための話し合いをし、議論する課程の中で真剣に向き合って出す文字にはとても意味がある、と仰っていました。まさに、協働の産物です。
 

写真提供:華厳宗大本山東大寺 (3日間の気づきを一文字で表した「自分自身の一文字」)
 
 
 
「その2」では、これらプログラムについて、「東大寺寺子屋」を運営する側からの視点を中心に、さらに読み解いていきたいと思います。
「その2」に続く
 
(中澤 地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)

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