近畿ESDセンターは、2017年7月の開設以来、今年で5周年を迎えました。近畿ESDセンターでは開設当初から、学校教員のESD推進を応援する拠点の取材に取り組んでいます。令和4年度は「京都府地球温暖化防止活動推進センター(京都)」、「国立曽爾青少年自然の家(奈良)」の2つの拠点に対して取材を実施しました。
7月5日(火)には、奈良県宇陀郡曽爾村にある(独立行政法人国立青少年教育振興機構)国立曽爾青少年自然の家(以後、主に「自然の家」という)を訪問し、次長の角田さん、企画指導専門職の高瀨さんに活動や取組についてお話を伺いました。
レポートその1では、国立曽爾青少年自然の家の設立背景や施設の様子、目指す姿についてお伝えしました。その2では、自然の家が取り組む事業プログラムを基に、学校教育での体験学習や授業への活用などについて、元小学校教員の中澤(地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)のコメントと共にご案内します。
曽爾青少年自然の家では、沢山のプログラムがホームページでも紹介されています。https://soni.niye.go.jp/activity-programs
そして、この取組の基となるのが、国立青少年教育振興機構(以下「機構」という)でデータをとりまとめている「子どもの成長を支える20の体験」です。https://www.niye.go.jp/files/items/1335/File/kodomoseityo.pdf
<子どもの成長を支える20の体験と12の資質・能力:国立青少年教育振興機構パンフレットから>
ここに揚げられている20の体験(体験活動・生活習慣・ひととのかかわり)は、子どもの成長過程において成長を支える体験として示されていますが、体験を通して育成したい12の資質・能力についても様々な調査から分かってきたそうです。このような内容を根底に、曽爾自然の家では、国際交流、防災などに関連したことも含めて様々なプログラムを組んでいるということです。
令和4年度国立曽爾青少年自然の家 事業案内PDF①
【幼児の自然体験プログラム】
小さい頃の体験は、「原体験」として「生涯かけがえのない体験」でもあり、のちの人生に大きな影響を与えると言われています。
曽爾自然の家では、幼少期からの自然体験が大事であると考えて、小学校低学年と幼児向けのプログラムに以前から力を入れています。自然の家でのプログラムでは職員がしっかりサポートして実施したり、自然体験プログラムを組んで出前授業に出かけたりしているそうです。いわゆる野外活動にありがちな「登山」と「カレーライス作り」などといったお決まりのパターンではなく、ワクワクしながら自然と触れ合うことで感性が高められるように、子ども達の自主性を重んじる体験重視のプログラムを提供しているそうです。「曽爾高原でできる幼児のための12の体験プログラム」のパンフレットを見ると、興味深いものが沢山あります。そのうちのいくつかをご紹介します。
≪葉っぱあわせ≫
指導者が任意に選んだ葉っぱを子どもたちがじっくり観察して、同じものをフィールド内で探し当てるゲームです。
子どもたちにとって葉っぱは、楕円形で両方の先が少しとがったものというイメージがあるかもしれませんが、その概念を大きく覆すことができるのではないでしょうか。丸かったりギザギザだったり、細かったり大きかったり、また、手触りもつるつるだったり、ふわふわしていたり、匂いがしたりと、自然の葉っぱは様々です。色にしても、緑色とひと口で言っても、色んな「緑」がありますから、提示されたものと同じ葉っぱを見つけようと目的を持って観察することで、植物の多様性に気づくのではないでしょうか。自然界では、植物それぞれが命を持って私たち人間と同じように地球上で生きているのですから、環境配慮(生態系の保全)に向けた想いを醸成するための第一歩とも言えると思います。
≪森のお医者さん≫
聴診器や虫眼鏡を持って、森の中を歩きます。木に聴診器を当てて音を聞いてみたり、ミクロの世界を楽しんだりすることができます。
この体験は、大人の私でもやってみたいと思います。森の散策というだけでなく、持ち物は、「聴診器と虫眼鏡」。これだけで、探検気分がグーンとアップします。虫眼鏡で観察することで、例えば、小さな虫の体が大きく見えるとまるで違った生き物に映って、目・触覚・足など、それぞれの体の作りの面白さに驚くと思います。次に、聴診器を樹木に当てるといったいどんな音が聞こえてくるのでしょうか。木が根を張っている地面を流れる地下水の音や、風で木の葉が揺れる音などでしょうか?様々な音が木の鼓動として子ども達の耳に届くことで、木の生命力を感じることができます。木はただ立っているだけでなく、周りの環境の影響を受けながら存在している生き物だからです。この体験を通して、子ども達が木に親しみを感じたり、木に関心を持ったりするきっかけになるでしょう。
≪亀山登山・お亀池ぐるっとハイキング≫
標高849mの亀山は、幼児でも登れる手軽な山です。草原の中にある遊歩道を歩き、お亀池を1周するハイキングができます。秋のススキだけではなく、春や夏は様々な野草を見ることができます。夜に星やお月見をしながら歩く「ナイトハイク」のコースとしてもおすすめです。
この二つのプログラム(登山・池周遊)は、まさに曽爾高原の大自然が満喫できる、自然の家ならではのものだと思います。山道は舗装された道路と違って土や石ころもある道ですから、子どもの体幹が鍛えられたり、足裏感覚が身についたりと運動面での効果もあり、自然の中での危機管理能力も育つといいます。
初めて山登りに挑戦する子も、亀山峠から見渡せる眺めなど、自然の素晴らしさを感じるとともに、登頂の達成感や遠くまで歩いたことの満足感を十分味わえるのではないでしょうか。
幼児向けの体験のプログラムでは、保護者は曽爾の現地まで送り迎えをするだけで、後は自然の家でキャンプリーダーや職員が対応されると聞き、宿泊も含むこのプログラムは、入念な計画のもとで作られていることに感心しました。
【そにっとキャンプ】
自然の家では、発達に課題のある子どもを対象にした小学生向けのプログラムに長年取り組んでいます。自然豊かな曽爾高原の立地条件のもと、宿泊施設を持つ曽爾自然の家の強みを生かしたプログラムです。子ども達が冒険的な活動を通して、小さな成功体験や、やり遂げた達成感を積み重ねることで、社会性や自己肯定感を養い、自分らしさをみつけて、しっかりと自信をつけて帰ってもらえるように、20年ほど取り組んでいると、高瀨さんは仰っていました。「積み重ね」というのは、実はこのプログラムは、春・夏・冬それぞれ「出会いのキャンプ」「冒険のキャンプ」「交流のキャンプ」と、年3回の充実した宿泊体験が組まれているのです。
・はじめて出会う友達やリーダーと体を動かすことを通して仲良くなる。
・仲間と一緒に問題を解いたり力を合わせて野外炊事に取り組んだりする。
・仲間と一緒に助け合って山登りや沢登リ・カヌーに挑戦する。
・心を込めて保護者へのメッセージカードを書く。
など、様々な体験を通して、子ども達は人とのつながりを確かなものにしていくのだと思います。
【地域探究プログラム】
機構の「全国高校生体験活動顕彰制度『地域探求プログラム』」https://tankyu.niye.go.jp/で、全国で展開されているものです。郷土や自然に愛着を持ち、自ら地域活動を行うことができる新たな高校生の育成を目指します。高等学校の「総合的な探求の時間」において、「探求」の名の通り、自らの体験を通して学び、地域の魅力を発見したり、地域の課題解決に向けて実践的に試みたりする機会を創ります。
今年度、曽爾青少年自然の家では、奈良県立添上(そえかみ)高等学校と、奈良県立山辺高等学校山添分校の2校と連携を進めているそうです。添上高校では、令和3年度に普通科人文探求コースを新設し、「探究活動を学びの軸とし、自ら進むべき道を主体的に模索し各々のステージで活躍できる人材の育成を目す。」ことを趣旨として掲げています。そこで、昨年度より、「全国高校生体験活動顕彰制度『地域探究プログラム』」を活用し、曽爾青少年自然の家のプロジェクト(曽爾村が抱えている様々な課題について学び、解決に向けた探究活動を行うもの)に参加しています。
このプログラムは年間を通した活動が計画されており、1学期には、国立曽爾青少年自然の家から学校に出向いて曽爾のことを伝えます。そのガイダンスをもとに、夏休みまでに各班で探究テーマを設定して課題解決に向けた仮説をたて、その実証を兼ねて曽爾村内でのフィールドワークを8月に実施します。そして、探究した内容をまとめて校内や活動地曽爾で報告として発表しているそうです。
機構では「地域探究アワード」というコンテストを開催して、希望する参加校はプレゼン発表を行います。最終の全国ステージででは、文部科学大臣賞を設けているとのことで、曽爾自然の家でも、やがてはここに向けた取組ともなるように広げていきたいと考えているとのことでした。
<地域探究プログラムの概要:国立青少年教育振興機構ホームページより>
【絵からも読み取れる自然体験の効果】
取材時に見せて頂いた二つの絵があります。
上は、キャンプ体験前の絵で、下は、体験後の同じ子どもが描いた絵だそうです。体験前は、地平線が引かれ家も空も平面的で、木が1本という絵ですが、キャンプ体験後には、人が何人も描かれており、皆楽しそうに笑っています。木の生えている場所に奥行きがあります。2枚を比べると、捉え方の違いや感情表現が絵によく表れていると思います。
楽しかったキャンプ体験が子どもの心の豊かさに通じることがよく分かります。
「青少年に対し社会自立に向けた健やかな成長を促していくには、家庭や学校、地域といった、様々な場面で発達段階に応じた多様な体験を提供し、それらの経験を通じて心身ともに健全な人間形成を支援していくことが大切です。」
と、先に紹介した「子どもの成長を支える20の体験」においても述べられていますが、確かにその通りだと思います。学校教育における社会教育施設との連携、家庭、地域との連携、それぞれの連携を促していくことの必要性を強く感じた取材でした。
(中澤 地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)