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2022.03.07 ESDニュース・イベント センターお知らせ 

「いのちをつなぎ、いのちが輝く動物園を目指して」 京都市動物園 その2

近畿ESDセンターは、開設5年目となりました。近畿ESDセンターでは開設当初から、学校教員のESD推進を応援する拠点の取材に取り組んでいます。令和3年度は2つの拠点に対して取材を実施することができました。

2022年9月29日に京都市動物園を訪れ、京都市動物園 生き物・学び・研究センター長の田中正之さんにお話をうかがいました。
レポートその1では、京都市動物園の歴史、動物園の役割や目指す姿についてお伝えしましたが、その2では、京都市動物園が取り組むESDやSDGsについて学校での学習や授業への活かし方を中心に、元小学校教員の中澤(地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)のコメント共にご案内します。


<2021年度のアニマル園長(第6代目)に選ばれたのは、お母さんキリンの「メイ」でした。>

【循環型社会の実現を動物園で学ぶ】


<一人暮らしの「美都」のもとに、「ゾウの繁殖プロジェクト」でラオスから4頭の子ゾウがやって来た。>

京都市動物園には、現在5頭のゾウがいます。ゾウは1頭当たり、1日100kg以上の餌を食べて40kg~50kgの糞をするそうですから、5頭分となると、1日約200kgの糞が出ることになります。この沢山の糞は、コンポストで微生物に分解させることで、有機肥料に変えることができます。取材後に、田中さんに園内を案内していただき、バックヤードに設置されたバイオメイトという立派なコンポストを見せていただきました。

<この機械は、ゾウの糞専用として使われているので、純正肥料です。ふかふかで匂いもさほど感じません。>
そして、できた有機肥料は、近郊の農家や学校の菜園などに提供しているそうです。ゾウの糞を全て生ごみとして焼却することを考えると、かなりの量のエネルギー削減やCO2の排出削減にもなっています。
現在動物園では、地域や近隣の企業と連携し、京都府植物園や造園業者などの剪定枝や規格外の野菜などを動物の餌として寄付してもらうことで、草食動物たちは、餌のバラエティを増やすことができ、フードロス削減かつ有効利用につなげています。もちろん、飼育経費の負担も軽減できます。京都府立植物園から枝を運んで来たトラックに、動物園でできた堆肥を積んで帰ってもらうなどして、ガソリンの無駄も省いているとのことです。

SDGs目標12では、「つくる責任つかう責任」が掲げられていますが、動物園のこの取組は廃棄物の発生を大幅に削減し、化学物質などの放出の低減にも貢献しています。学校の授業でも、こういった動物をめぐるリサイクルに着目した導入など、子ども達には新鮮な気づきとなり、意欲的に学べるのではないでしょうか。何よりも、動物たちがSDGsの達成に一役買っているというのが興味深いと思います。

【どうぶつしあわせプロジェクトで環境エンリッチメント】

動物福祉に基づいて、飼育環境においても動物ができるだけ本来の自然な行動や暮らしに近づいて快適に過ごせるよう、その環境を改良することを「環境エンリッチメント」と言います。群れを作る動物は群れで飼育し、樹上を利用するものはそれらが利用できるように環境を整え、動物が幸せに暮らすことができるように配慮することです。

例えば、京都市動物園では、2018年の台風の被害を受けてたくさんの倒木があった京都府植物園から伐採木を提供してもらい、ツキノワグマ舎に導入しました。渡した丸太の上を器用に移動したり、木々に爪を立てたりかじったりと探索や移動の行動が増加し、ストレスや不安を感じたときに起こるとされている常同行動が減少したそうです。常同行動は、本来動物が適応してきた環境とは異なる環境に適応するために行うものだそうで、環境エンリッチメントを施すことがストレス解消に役立っているのです。
「どうぶつしあわせプロジェクト」は、一般に参加者を募り、動物たちを観察して日常の様子に触れながら、飼育環境を工夫する動物園の活動に参加してもらう取組です。
<どうぶつしあわせプロジェクト ~ツキノワグマ編~>
ツキノワグマは、野生では木に登って果実やドングリなどを食べたりするということですから、剪定枝を使って小さな森を作ったり、木の枝に野菜や果物をつけたり、ドングリなどを隠したりして、本来の姿を再現することを試みます。また、食べ物を取り出すのが少し難しくなるようなフィーダー(給餌器)を設置することも環境エンリッチメントの一環だそうです。ツキノワグマの「ほのか」は、果物を食べたり、枝を折って敷いてみたりと色々な姿を見せてくれたそうです。

<ツキノワグマの「ほのか」こちらを向いて笑っている‼? ような気がしました。>
<どうぶつしあわせプロジェクト ~アカゲザルのおばあちゃん編~>
京都市動物園には老猿ホームがあり、現在は2頭の高齢の猿が暮らしています。群れから離すのは、動きが遅い高齢の猿はエサを取りはぐれてしまいがちなためで、室内の通路は上り下りしやしようにスロープや階段がたくさん付いており、部屋には冷暖房も完備しています。プロジェクト参加者は、実際に観察した後に、どんな工夫がよいのか、どこが不便そうかなど話し合ってアカゲザルたちの足腰を鍛えつつ餌を食べる装置を作ったり、グランドを歩きやすいように剪定や草刈りをしたりと、みんなで力を合わせて環境エンリッチメントが行われたということです。これは、「生まれてから死ぬまで、動物の暮らしをサポートする」という動物福祉の考えそのものです。
<どうぶつしあわせプロジェクト ~テンジクネズミ編~>
小学生とその家族の方を参加対象として、テンジクネズミをじっくり観察したり、エサやりを体験したりしてもらう取組です。時間をかけてテンジクネズミのことを知ってもらい、その魅力を伝えることが1番の目的ですが、テンジクネズミを喜ばせるには?テンジクネズミにとってのしあわせとは?など、動物の側に立って参加者が一緒に考えながら触れ合うことにもねらいがあります。
動物園では、普段も<おとぎの国>エリアでふれあいを行っています。しかし、動物福祉の観点からは、小動物を胸に抱いたりすることは、小動物にかなりのストレスを与えることになります。現在は、かごに入れた動物の背中をなでるというふれあいの仕方に変更し、動物のストレス軽減に配慮しているそうです。動物をかわいがりたいという欲求は、相手にとってはかえって迷惑になりかねないのです。動物園に限らず、動物とのふれあいの際には、触られている動物はどんな気持ちかを想像し、どのような接し方をすればよいかを考えることが大切です。

<テンジクネズミの仲間たち 普段は集団で飼育されています。>
「動物にとって最適な状態とはいかなるものか。動物福祉を考えるにあたっての究極の問いである。」とお聞きしましたが、正にその通りだと思います。
SDGsの目標15は、「陸の豊かさも守ろう」ですが、ただ数や種類が多ければよいという訳ではなく、それらが生き生きと生活する場やその種本来の生き方ができるような環境を私たち人間が考えていく必要があると思います。「どうぶつしあわせプロジェクト」の取組から学ぶことができます。

【環境教育実践の場 京都の森】

京都市動物園のエリアの一つに<京都の森>があります。
京都の豊かな自然を伝えることで、人と野生動物の関わりを学ぶことができ、地域の自然環境保全に貢献できる施設となっており、希少淡水魚類の保全・繁殖も行っています。

教育プログラムとしては、棚田での「どうぶつえん米をつくろう!」、ゾウとシマウマの糞が肥料の畑では「野菜を作って動物たちにたべてもらおう!」などの参加型イベントが行われています(※現在はコロナ感染症防止のため、休止中です。)そして、特に力を入れているのが、絶滅の危機に瀕しているイチモンジタナゴの繁殖を目指す「守れ!イチモンジタナゴ プロジェクト」です。
水質汚染により生息域が狭まり、肉食外来種(ブラックバス、ブルーギル)の侵入でも被害を受けたイチモンジタナゴは、特殊な繁殖の仕方をします。産卵場所は生きた二枚貝の中。二枚貝の繁殖には、ヨシノボリなどの魚がいる必要があり、1匹の小さな魚の繁殖には、環境保全が必須の条件となる訳です。
たくさんの種類の生き物がつながって生きている多様性を守ることは、SDGs15のターゲットの一つですが、全てのゴールの根幹ともなっているのではないでしょうか。
その他、ゲンジボタルの繁殖のための環境整備や京都三大祭りの葵祭で使用する「フタバアオイ」と、祇園祭で使われる「チマキザサ」の繁殖にも取り組んでいます。いずれも京都市の文化と自然のつながりが学べるものです。

<祇園祭の厄除けちまき、和菓子など数百年にわたって利用されたチマキザサ 25年ほど前の枯死現象の後、動物の採食のため再生が進まず、伝統的な採集や加工技術の存続が危ぶまれています。>
京都市動物園の教材は、地球環境を保全して、持続可能な社会づくりの担い手となる人材を育成するESDの教育につながると思います。また、国内外の動物園や機関と連携して行っている取り組みは、SDGs目標17「パートナーシップ」が必須です。
動物園というと小学校低学年の遠足という感がありますが、京都市動物園の取材を通して、動物園本来の設置意図からも、これからは高学年あるいは中学・高校生も含めて幅広い年代に向けた教育的意義を実感しました。特に研究分野の様々な取組は、興味深く探求的な学びが期待できます。
(中澤 地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)
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