近畿ESDセンター開設3年目となりました。今年度も学校教員のESD推進を応援する拠点を取材しています。8月2日に滋賀県東近江市にある、あいとうエコプラザ菜の花館を訪問し、館長の増田さんにお話をうかがいました。
「菜の花プロジェクトを通して、地域の持続可能な循環を考える」その1はこちら
「その1」では、菜の花館が拠点となって展開されている資源循環の取組が地域に根付いていった経緯を中心にご紹介しました。「その2」では、社会見学や校外学習にも有効に活用できる「あいとうエコプラザ菜の花館」の取組を、元小学校教員の中澤(地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)のコメントと共にご案内します。
【あいとうエコプラザ菜の花館の体験学習】
菜の花を栽培し、収穫した種から油を作る。そして、使用済みの油を回収して再利用するといった「菜の花プロジェクト」は全国的に展開されていますが、愛東は、「菜の花プロジェクト発祥の地」と言われています。2001(平成13)年から全国菜の花サミットが毎年開催され、菜の花プロジェクトを行っている地域・団体でネットワークを作り、資源循環型社会、持続可能な社会に向けた、より有効なモデルづくりを目指して地域間の相互交流を行っているそうです。
菜の花館は、その名のとおり屋根に菜の花を模した煙突がついており、ひときわ目立つ黄色いラインがアクセントの、見た目も楽しい建物です。ここでは、さまざまな体験学習・環境学習を行っています。
●バイオディーゼル燃料(BDF)製造体験 (所要時間:60分~・カートを含む)
実験器具を使い、実際に廃食油からバイオディーゼル燃料(BDF)をつくる体験ができます。はじめは茶色の廃食油が、透明な黄色を帯びたきれいな色に変わっていきます。できた燃料で実際にカートを動かし、試乗することも可能です。自分たちが作った燃料で車を動かすことができるなんて、わくわくする体験ですね。しかも、捨てられるはずの廃食油がまた燃料として生まれ変わるというのですから、資源循環、再利用することの有用性を学ぶ場ともなります。
●搾油体験 (所要時間:15分~)
小型搾油機で、菜種から油をしぼることができます。菜の花は子どもたちにとって見かけることも多い身近な植物です。その種から食用油を搾る体験ができるので、食品の原材料に興味を持つことにもつながり、食の安全や栄養価などについても関心を促すことができます。実際の調理に油はかかせませんから、この体験を通して、日常の生活の場面での環境や食に関する興味・関心を広げていくことができます。
●石けんづくり体験
石けんづくりグループ「愛のまちエコライフ」の指導で、かつて琵琶湖で起きた「せっけん運動」の歴史的背景を学ぶとともに、廃食油石けんづくりの一部を体験できます。また6年生では家庭科の衣生活の単元で、実際にそのせっけんを使った洗たくにつなげるなど、家庭科の学習に組み込むこともできるのではないでしょうか。
●キャンドル体験(所要時間:30分~)
廃食油を固めて、芯をつくり、色づけをし、アロマオイルで匂いもいい、キャンドル作り体験です。出来上がったキャンドルは持ち帰れます。
施設の見学は、次のような菜の花館内の各種施設をガイドの方に案内していただくことができるほか、自由見学も受け付けているそうです。
●菜種の乾燥・搾油・精油施設
●BDF(バイオディーゼル燃料・廃食油再生燃料)精製施設
●せっけん製造施設
●炭化プラント(もみがらを燃焼し、くん炭にする施設)・排熱利用設備 など
循環について体験を通して学べる色々なメニューを館内の見学に組み込むことで、「持続可能な地域づくり」に子どもたちの関心を促すESD学習として充実したものとなるでしょう。
私も増田さんの案内で館内を見学させていただきました。地域の食・文化・活動・経済など、あらゆる地域資源を関連づけながら、実に無駄なく、しかも非常に質の高い循環を保つ工夫が施されていると感じました。廃食油の回収に始まり、粉せっけんへのリサイクルだけにとどまらず、菜種油の搾油・販売、廃油燃料化プラントの開発によるBDF利用など、何れも多くの市民や団体との協働により地域活性化にもつながる波及効果が表れているそうです。
菜の花館の見学を通して、自分たちの地域の資源、それを引き継いできた地域の人々の想いや取組を知り、地域の良さを改めて見つめる手掛かりになると思います。いつの時代もその土地に住んでいる人々が、自然環境や資源を上手に利用して、より豊かに幸せに暮らせるように願い、様々な知恵を働かせてきたからこそ、今の自分たちの暮らしがあります。このことに気づいた子どもたちは、自分たちも次の世代に豊かな環境を受け継ぐことに誇りを持って取り組んでいくことでしょう。
(中澤 地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)