近畿ESDセンター開設3年目となりました。令和元年度も学校教員のESD推進を応援する拠点を取材しています。8月22日に神戸市にある、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターを訪問し、事業部の矢野さんと藤村さんにお話をうかがいました。
「阪神・淡路大震災の経験と教訓を次世代に生かすために」その1はこちら
レポートその1では、博物館機能としての館内展示を中心にお伝えしましたが、その2では、研究機能と研修機能について、元小学校教員の中澤(地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)のコメントと共にご案内します。
入口 ≪人と防災未来センター 提供≫
【阪神・淡路大震災の教訓が生み出した、防災・減災の必要性】
全国的に「防災」という言葉や意識が生まれてきたのは、阪神・淡路大震災が大きなきっかけであるとお聞きしました。
阪神・淡路大震災の70年前に、10万人もの死者を出した関東大震災以降は、50年ほど前の福井地震(死者・行方不明者3,769人)を最後に、死者1,000人を超す大きな地震は起きていなかったそうです。つまり、現役世代で大きな地震を経験した者は一人もいないという状況だったのです。まさに、天災は忘れた頃にやってくる、です。また、当時、兵庫県の防災担当職員は6名で、消防防災交通安全課とういう、交通安全と一緒になった課に置かれていたそうです。しかし、現在では約70名の防災担当職員を置き、交替で宿日直し、24時間365日の監視体制をとり、地震が起きれば、県下周辺の待機宿舎に住んでいる100人以上の職員が駆けつけられる対策をとっているとのことです。
近年の自然災害が多発する状況をふまえて、学校教育においても、新指導要領(2020年完全実施)社会科では、現行の「災害および事故の防止について・・」(第3学年及び第4学年)から、「自然災害から人々を守る活動について・・」へと変更され、第4学年に独立した形でとりあげられています。また、「地域の関係機関や人々は、今後想定される災害に対し、様々な備えをしていることを理解すること。」と記されています。人と防災未来センターの見学を生かして、このような単元の授業の導入や、相互性、連携性、責任性といったESDの視点を盛り込んで持続可能な社会を創るための行動を意識させるなど、学びの場が広がるのではないでしょうか。
西2階 防災・減災ワークショップ ≪人と防災未来センター 提供≫
先生方には、人と防災未来センターの担う研究機能や研修機能についても知っていただき、センターの果たす役割を総合的に捉えていただきたいと思います。
【防災研究を被災地の災害対応に生かす】
防災の研究とは、いわゆる地震のメカニズムなどの自然科学的なものではなく、復興に関してどういった支援ができるかといった、社会科学的な研究を行っているそうです。主に行政の防災力向上を図る目的で、実践に生かせるように考えられているとのことです。当時の知事の反省として、復興に向けての相談者、助言者となる専門家がいなかったということが大きな理由の一つであるとお聞きしました。
センターでは、若手専門家の育成を掲げ、大学院を卒業した9名が研究員として就任し、大学教員を上級研究員として招いて指導を受ける体制をとっているそうです。実際に災害が起きたときには、調査も兼ねて研究員を派遣し、被災地の自治体本部局に災害対応支援ができるような実務研究者を育てているとのことです。
西3階 震災からの復興をたどるコーナー ≪人と防災未来センター 提供≫
【災害対策を担う自治体職員の育成】
自治体の防災担当職員を対象に、防災に関する実践的知識や技術を体系的・総合的に学べる「災害対策専門研修」を提供しており、全国から研修を受けに来られているそうです。首長や防災官長の意思決定を補佐できるということも視野に入れ、段階を追ってステップアップを図る形で企画されています。
また、トップフォーラムという首長向けの研修では、グループワークを基本として、成果の発表は模擬記者会見を想定して行われ、現職の記者やアナウンサーも講師として参加して表現力を高める一役を担っているそうです。災害時に起こる様々な課題に対応できるような要素が研修に盛り込まれていることが分かりました。
前述の第4学年社会科の内容の取り扱いにある、「県や市などでは、防災情報の発信、避難体制の確保など、関係機関と協力して、様々な備えをしている」ことを理解することの例にもなるでしょう。
今回の取材を通して、世界的に自然災害や二次被害が多発している中、減災社会の実現に向けた取組として、まさに、防災人材育成、研究・情報発信等、国内外におけるネットワークの形成が重要であることを、改めて認識しました。また、同時に個人の中にも防災意識を確立させることの重要性を感じました。学校で行われる避難訓練一つをとっても、形だけではない、防災教育を通した深い学びの成果がきっと現れることを期待します。
(中澤 地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)