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2019.11.20 センターお知らせ 

「菜の花プロジェクトを通して、地域の持続可能な循環を考える」あいとうエコプラザ菜の花館その1

 近畿ESDセンター開設3年目となりました。令和元年度も学校教員のESD推進を応援する拠点を取材しています。8月2日に滋賀県東近江市にある、あいとうエコプラザ菜の花館を訪問し、館長の増田さんにお話をうかがいました。
 
 あいとうエコプラザ菜の花館は、東近江市の資源循環型の地域づくりを進める拠点施設で、NPO法人愛のまちエコ倶楽部が管理運営をされています。
施設としてオープンしたのは平成17(2005)年ですが、それ以前に、この菜の花館を知る上でとても重要な歴史がありました。菜の花館が担う拠点の役割や、取組が地域に根付いていった経緯を交え、元小学校教員の中澤(地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)のコメントと共にご案内します。
 
【その1.琵琶湖に守られ琵琶湖を守る】
 今から40年ほど前、琵琶湖で赤潮が大量に発生するという事態が起こりました。琵琶湖流域に住む人々の生活や、特に洗濯に使う合成洗剤が琵琶湖の汚れにつながり、赤潮発生が引き起こされているというのです。近畿圏に豊かな水を流し、飲み水の水源にもなっている琵琶湖の水質汚染は大きな問題となりました。
 滋賀県では生活を地下水にゆだねているところでも、昔から水文化を大事にしてきました。それにも関わらず、赤潮発生という水質汚染がおこり、しかも自分たちの暮らし方がその一因だったということに大きなショックを受けたとのことです。当時の滋賀県知事は、「滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例」(昭和54年)を制定し、工場・事業所に窒素やリンの排水基準を適用しただけでなく、リンを含む合成洗剤の使用・販売を禁止することにまで踏み切ったそうです。
 琵琶湖の水は常に水質が良く、自分たちの生活に潤いと資源を与えてくれるのがあたりまえのようになっていた近隣の住民は、琵琶湖が危機的な状況に置かれていると知り、その環境を守るために立ち上がりました。リンを含む洗剤を琵琶湖に流さないために、これまで捨てられていた廃食油を回収し、琵琶湖を汚さない石けんにリサイクルする「石けん運動」が少しずつ広がっていきました。こういった地域住民の想いや行動は、持続可能な地域を自分たちの手でつくってきた取組として、とても素晴らしいESDの学習教材となります。
 
【その2.住民主体で資源を活かす「あいとうリサイクルシステム」】
 このような背景のもと、愛東地域では、1981(昭和56)年より消費生活学習グループが、缶と共に石けんの原料となる廃食油の回収を始めました。その取組は住民主体の資源回収へと移行し、現在もその回収体制は続いています。自治会ごとに当番の人の手であいとうエコプラザ菜の花館に持ち込まれ、次の資源工程にすぐに回すという、住民自らが分別・収集・運搬をおこなうしくみが「あいとうリサイクルシステム」です。資源回収のしくみの中に自治会やボランティア、市職員が手伝うとともに分別チェックをするなど相互の関係性を生み出しています。集めた廃油の一部は、菜の花館において粉せっけんにリサイクルしていますが、粉せっけんの容器には回収したペットボトルが使用されており、資源の無駄を省くことにもこだわっています。
 廃食油の回収は、ガソリンスタンドや高齢者の利用の多いコミュニティーバス、公共施設などでも回収できるよう工夫したり、市内全域の学校給食の油も回収したりと、取組の輪を広げています。
 
【その3.あいとう菜の花エコプロジェクトでつくる地域の輪】
 バイオディーゼル燃料(BDF)をご存知でしょうか?ディーゼル車に使用できる植物油からできた燃料のことで、廃食油が車の燃料になるという画期的な取組があります。現在、東近江市では、光の祭典「コトナリエ」の発電機や市内を走るコミュニティーバス(ちょこっとバス)、農・林業機械などにもBDFを活用して成果を出しています。
 燃料をつくり、最後まで有効に使うという、この資源循環システム「あいとう菜の花エコプロジェクト」は、1998(平成10)年に愛東町子ども会が30㌃の畑に菜の花の苗を植え付け、刈り取り・搾油体験を環境学習の一環として行うことから始まったそうです。菜の花館(NPO法人愛のまちエコ倶楽部)がこの事業を引き継ぎ、環境にこだわった熱心な取組によって農産物の生産・販売に対する安心感を生み出すことに成功したと言えるでしょう。取組みが始まって20年が経過し、休耕田等を利用した栽培面積は18㌶にまで広がりました。収穫した菜種油は、家庭での調理や学校給食に利用し、搾油時に出る油かすは飼料や肥料として利用して、回収した廃食油は石けんやBDFとして再び地域で利活用されるというみごとな資源循環システムが作り上げられています。
 産物であるBDFは軽油の代替え燃料のため、地球温暖化防止にも寄与し、化石エネルギーを使わない再生可能な資源としても有効だそうです。
 
 増田館長は、「菜の花プロジェクトの取り組みの基本は、しっかりした回収の仕組みを地域の中に作り上げること、それを進める人々を育てること」だとおっしゃっていました。さらに、それぞれの地域の特性や課題を踏まえた上で、集めた廃食油をリサイクルするための適正技術の開発や、リサイクルされたものを地域で利活用していくといった「地産地消」にもつながる考え方を広めることも大切だとのことです。せっかくせっけんやBDFにつくりかえても、それが使われなければリサイクルの輪が途切れてしまうからです
 
 増田館長のお話をうかがって、地域を愛する心がその根底に流れていると感じました。自分たちの地域の自然環境を守り、さらに地域の産業を生み出すことで経済的な効果ももたらすことができているところが素晴らしいと思います。地域住民にとっては、日常生活の少しの時間や手間を廃食油の回収に役立てることで、自分たちの町に貢献しているという意識が市民としての一体感を生み出しています。子どもたちも地域で行われている菜の花エコプロジェクトを教材に、地球温暖化や資源の循環についてさらに学習を深めることができると思います。また、地域の中で自分にできる事を考え行動に移すという、持続可能な社会の創り手の育成につながると思います。

「その2」では、社会見学や校外学習にも有効に活用できる「あいとうエコプラザ菜の花館」の施設の様子をご紹介します。
 
(中澤 地域教材化コーディネーター・学習指導コミュニケーター)

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